【毎日新聞(滋賀版)】「株式会社藤沢製本」を紹介する記事が掲載されました
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株式会社藤沢製本
2024/1/24 毎日新聞(滋賀版)
地方経済に大きな影響を及ぼす、中小企業の事業承継問題。帝国データバンクの「近畿企業の後継者不在率調査」(2022年)によると、滋賀は57.7%と最も高い数値を示しています。「中小企業の後継者」というと若年層にはスタートアップのような魅力に乏しく思われがちですが、若手後継者が先代の築いた経営資源を生かし新しいビジネスに挑戦する「ベンチャー型の事業承継」は、国や自治体も推進する未来志向の方策です。なんと当時31歳の“嫁”が代表取締役に名乗りを上げ、手腕を発揮している株式会社藤沢製本を訪ねました。
1963年、創業者の藤澤元己社長は、アルバイト先の製本会社でノウハウを学び19歳で起業。大学受験生必携の赤本をはじめ教育・学術・法律などに関する書籍の製本を手掛け、京都市で成功を収めましたが、少子化の波で事業縮小し大津市に移転。そんな折に救世主となったのが長男の妻、藤澤佳織さんです。結婚と同時に入社し出産・育児を経て復職後、若い感性が吹き出しました。主要な実務を担うにもかかわらず先方の信頼を得にくいもどかしさを感じた経験をきっかけに2020年、社長に代表権を請い、さまざまな改革に乗り出したのです。
手始めは職場の意識改革。忘れられていた就業規則を整え、残業・休日出勤をなくし人件費を削減。企業方針や経営状況を、毎月発行する「よめ通信」で共有。ゼロだった女性社員を積極的に雇用しました。また、それまでごみ箱に捨てられていた紙出(しで)(余り紙や断裁紙)を市内の幼稚園や保育園に寄贈。自身の育児経験から、こどもの無限の創造性を育くむ土壌をつくり、教育でも地域貢献しようとしています。さらに、自社ブランド「テキトーフォーミー」を立ち上げ、オリジナルノートや他社との共創によるペーパーウエイトなどを商品化。新たな収益の柱を育てています。これらの取組は着々と実を結び、3年余りで営業利益率アップ。22年には、不況を吹っ飛ばす個性あふれる女性経営者を表彰する「J300アワード」事業承継枠で、特別賞「中小企業の“嫁”が社長になったらイノベーションが起きたで賞」を受賞しました。
当産業支援プラザの「省エネ診断事業」も上手に活用。専門家の調査・分析や助言、補助金制度を活用して検品作業に重要な蛍光灯をLED化、また最大需要電力(デマンド契約)の見直しなどが功を成し、23年度7月の電気料金の前年同月比4割(約20万円)削減に成功しました。エネルギーの「見える化」は、今後取引先から求められる製品表示やサプライチェーンの選択基準などにも有利に働きます。同じく生産性向上のための改善指導も受け、5S活動の徹底や生産ラインの短縮につながりました。
「愚直にいい本を作り続けてきた義父へのリスペクトが根底にある」と佳織さんは言います。梱包や納品などの最終工程まで徹底した美意識、ベテランが築いた職人技は、何よりの自慢。これが信頼につながっているのです。分業を基本とする業界ですが、印刷以外を全て内製化し一貫生産を実現した社長の功績により、紙の他にも木材・皮革・布・アクリルなどさまざまな素材加工が可能に。「均一美カット」と称される技術で今、分野を超えて新たな顧客が広がっています。
当事者意識と第三者目線の両方を持ち合わせている“嫁”は、事業承継者にふさわしいかもしれません。変革期にあり厳しい出版業界でもひるまず、滋賀の多様な製造業や大学とイノベーションを起こしたいという野望があります。技術と地元の信用を礎に、得意のアピール力とフロンティア魂を補い、会社を永続的に発展させたい。新生・藤沢製本から次に何が生まれるのか、今後も目が離せません。
企業概要
株式会社藤沢製本
(大津市枝1-1-23)
https://fujisawa-seihon.jp/レーザー加工事業、商品企画・ブランド開発事業。
お問い合わせ先
(公財)滋賀県産業支援プラザ
情報企画課
- TEL
- 077-511-1411