【毎日新聞】「有限会社吉正織物工場」を紹介する記事が掲載されました
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有限会社吉正織物工場
2025/3/18 毎日新聞

カタンコトンと心地よい織機の音が出迎えてくれる吉正織物工場。県9地場産業のひとつ「浜ちりめん」を支える企業です。伊吹山の伏流水と精練に適した琵琶湖の軟水に恵まれ、約300年前、養蚕で栄えた長浜に生まれた浜ちりめんは、上質な生糸と高度な技で紡いだ和装染呉服用生地の最高峰と称され、全国に広まりました。水で潤しながら緯糸に強い撚りをかける「水撚り八丁撚糸」や、「シボ」という表面の凹凸による染まりやすさ、美しい光沢、なめらかな肌触りが特徴です。
1927年に創業し、ビロードや浜つむぎの製造で名をはせた吉正織物工場が、需要の高まりで浜ちりめん製造に参入したのは79年。新参事業者なので早く認められたいと、あくなき探究心は当初から育まれてきたようです。その後、和装の需要が減り始め、同業者の撤退が続き窮地に立たされる中、3代目の吉田和生社長はさまざまな改革に挑みました。まずは洋装への転換。白生地の奥からにじみ出る光沢を生かしたウエディングドレスは、業界紙やメディアに取り上げられて活況を制し、「ココクール マザーレイクセレクション」(県主催)にも選定されました。

また、高級子供服のプロデュースのオファーをきっかけに、洗えるシルクの開発に着手。浜縮緬工業協同組合の理事長でもある社長は、県東北部工業技術センターの協力を得て13年を掛け、60回洗っても「擦れない、縮まない、色落ちしない」加工技術「YasaSilk(ヤサシルク)」に成功。卓越した技術は全国の素材・商材に広げ、業界の向上につなげようと考えています。並行して同技術によるユーティリティウェアブランド「2M,38S(フタツキサンジュウハッテ)」を発足。制作に係る2ヶ月と38工程を組み合わせたユニークなネーミングや、おしゃれなデザインが好評でブルゾン、プルオーバー、ハーフパンツ、ジェットキャップなどが人気を集めています。
さらに、JETRO(日本貿易振興機構)のハンズオン支援を機に海外展開にも注力。洋装用の120㎝以上の広幅生地に本格的に対応すべく、多様な糸や織りに強い既存のシャトル織機を独自に改造しました。欧米の名立たるラグジュアリーブランド社から注文を受け、生地の他にスカーフ、バック、セットアップなどで販路拡大。一昨年の「プルミエール・ヴィジョン・パリ」でも反響を得ました。また、環境意識が高い欧米にふさわしい「サスティナブル」な精練方法に改善。江戸時代の文献を基に県東北部工業技術センターと共に研究を重ね、化学薬品でなく稲わらを燃やした灰汁の上澄みで精練した生地「NecoS(長浜エコフレンドリーシルク)」を完成したのです。

黒衣となり支えているのが長浜商工会議所の「長浜シルクプロジェクト」。展示会や百貨店への出品、プレスリリース、デザイナーや専門家の紹介、自社ブランドの開発支援などで地域おこしを加速しています。
ピークの72年には約184万反の生産量を誇った浜ちりめんは、今や約1万反に減少。しかし近年、インバウンド需要などで日本の伝統文化への関心が高まり、東京や欧米で同社オリジナルの強撚糸の組み合わせや質の良さが見直され、新たな芽吹きを実感していると言います。「人間国宝の友禅作家などからも用命は途絶えず、和装文化はなくならない。片や永く継がれた技を世に役立つ形に変えて残していきたい」。吉田社長の言葉には、伝承者ならではの厳しさと重みがあります。昨今、シルクに含まれるたんぱく質をバイオ・健康・食品産業に転用する動きが広がっています。取材中に止まりかけた織機の音が帰り際に復活し、吉正織物工場が紡ぎ続けた技術がさらなる価値をひらく予兆を感じました。
企業概要
有限会社吉正織物工場
(長浜市口分田町629)
https://yoshimasa-orimono.jp/浜ちりめん、浜つむぎ、絹を中心とした繊維製品の企画・製造・販売(スカーフ、ストール、衣服、寝具、小物の自社ブランドおよびOEM生産)。
お問い合わせ先
(公財)滋賀県産業支援プラザ
情報企画課
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